子どもたちの心にスイッチを入れる4つの“魔法”

1つ目の魔法 ★エンピツだけの魔法

 

「空想画」をする時は、色は塗らずエンピツ一本だけを使います。
一体どうしてでしょうか?それは、色を塗るという作業を省いて、一枚でも多くの絵を描くことで、子どもの中にある宝物を簡単に探してゆけるからなのです。
また、子どもが作り出した面白いアイデアも、色塗りの技術が未熟だとグチャグチャな絵になってしまい、全てが台無しに・・・なんてことに。
ですから、色は塗らずにエンピツ一本だけで描いて、それによって見えてくるその子の素晴らしいところを発見し、ほめてあげながら、集中的に伸ばしてゆけるのです。
子ども達は、最初のうちは、必ずと言っていいほど、色を塗ることを強く望みますので、そのときは色を塗ることも許してあげてほしいと思いますが、1~2割程度にしてゆくことが大切だと思います。

 

☆ 『君だけは特別に色を塗ってもいいよ』

 

私が主宰している“空想画ですごいじゃん!!”では、えんぴつ一本で絵を描くことをきまりとしています。おうちの方には、その理由や考え方などを説明して理解をしてもらっているのですが、相手は子供たちですから、そんな理屈なんてどうでもいいようです。一生懸命楽しく空想画を描いたあとは、色を塗ってみたくなるのが、ごく自然です。
どんな子供たちも、始めた最初のころは、まだ空想画というものに、新鮮味を持っていますから、わけのわからないきまりにも、がまんをして従っていると思うのですが、数ヶ月もするとあちこちから「子供が色を塗りたいといってきかないのですが?」
「なぜ色をぬってはいけないの?って聞かれるのですが?」
などの質問が寄せられてきます。
まさかおうちの方にした説明を子供たちにしたところでわかってもらえません。
例えば、「色塗りは、未熟だし、せっかく面白いものを描いてもグチャグチャになってしまうから、塗らないほうがいいのだよ」
「色を塗っていると時間がかかるから、いっぱい描けないのだよ、だから、えんぴつでいっぱい描くのだよ。」そんな理由を言っても子供にとっては、どうでもいいことかもしれませんよね!
あるとき、初めから素敵な空想画を描くりょうくんというお子さんが入会してきました。「また一人凄い子供が入ってきたな、楽しみだなー」と思っていたところ、三ヶ月ぐらいたったある日のこと、一枚のファックスがながれてきました」それは、りょうくんのお母さんからでした。

「りょうが色が塗れないなら、もう空想画は描かないと言っているのですが、どうしたらいいでしょうか?」との質問でした。またそこには、りょうくん直筆の「どうして、いろをぬってはいけないのですか?ぼくは、いろがぬりたいです。ぬらしてください」というお手紙も添えられていたのです。
これには、少し参ってしまいました。普段は、ちょっとすました顔で、「ここでは、えんぴつ一本で描いてもらうのがルールなんです。」などと言っていたのですが、りょうくんに直接に返事をするとなると、どのように説明したらいいのか、頭を抱えてしまいました。
悩んだあげくに次のような返事をしました。

「いつも、りょうくんは、すごくおもしろい絵をたくさん描いてきて、りょうくんの絵をみるのが、楽しくてしかたありません。
この空想画は、いろをぬらないきまりになっているんだけど、りょうくんは、いつもいっしょうけんめいすごい絵をたくさん描いてきてくれるので、りょうくんがどうしてもいろをぬりたいとおもったときは、ぬってもいいですよ。いつもがんばっているりょうくんだから、とくべつにきょかしますよ。
そのかわり、これからもたくさんの楽しい絵をいっぱい描いておくってくださいね。」

私の返事をもらってりょうくんはとっても喜んだそうです。なにしろ特別に色を塗りたいと思ったときは、塗ってもいいですよと言う許可をもらえたからです。
お母さんからのお返事では、また楽しそうに絵を描き始めたとのことでした。
翌月には、数枚の色を塗った作品が送られてきました。やはりそれらは私が想像したとおりの作品でした。
大人の目でみると、色塗りが未熟な為に、素晴らしいエンピツ画は無残に壊されていたのです。それでもりょうくんは、少しストレスが解消されたようでした。

 

それから、二年近く経ち、あのりょうくんも今ではベテランの域まで到達してしまいましたが、そのとき以降は、不思議なことに、エンピツ画に色を塗ってきたことがないのです。

 

たった一度だけ、「りょうくんが、どうしても色を塗りたくなったら、特別に、塗ってもいいよ!」といっただけなのに、りょうくんのストレスは解消されたようです。
人間って本当に繊細で微妙だと思います。
「あれはダメ! これもダメ! こーしなさい! あーしなさい!」といっていてもだめなのかもしれもせんね!
決めたルールでも、正しいと思う規則でも、どうしても子供が変えたいと願うときは、あなたを信じているよという気持ちをこめて、許してみることも大切なことかもしれません。
小さな子供でも、子供だからこそ、わかるいろいろなことがあるのかもしれません。

 

2つ目の魔法 ★ 小さい紙の魔法

 

この「空想画」では、通常のお絵かきで使う画用紙よりも小さい紙に描いてゆきます。
大きな画用紙に絵を描くと、画用紙が埋まる前に、子ども達はもうその絵を描くのがいやになってきたり、飽きてきてしまったりすることが多いからです。
通常の紙のサイズは、子ども達にとっては、意外と大きすぎるのだと思います。
子どもにとって、画用紙が小さいと、短時間で作品を完成させることができるために、枚数をたくさん描くことができるので、その達成感の積み重ねが子ども達に大きな自信を与えることにもつながってゆくのです。

 

☆ 小さい紙の魔法の本当のわけ

 

二十数年前に、私が初めて子供の絵画教室を始めたころ、画用紙の大きさなんてまったく気にしませんでした。
お店に行って画用紙を探しにいったときも、大きいの(四つ切り)と中くらいの(六つ切り)サイズがありましたが、大きい方が、子供たちは伸び伸びと描けるだろうと何気なく思いましたし、幼稚園や小学校でも大きい紙を使っていたので、自然に大きい紙を選んでいたのです。
それからしばらくの間、大きい紙だけを子供たちに与えていたのですが、どうも子供たちは、その大きい紙をもてあそんでいるような感じがしたのです。
ある子供は、大きい紙にポツンと女の子を描いて、あとはボーっとしているのです。
また、ある子供は、一枚の紙に何週間もエンピツで描いていて、それから色を塗ったりするので、完成するまで一・二ヶ月かかってしまうのです。
一年経っても、十枚くらいしか描けない子もいたのです。
絵画教室に通っていても、たくさん描く子供でも、せいぜい一年間に二・三十枚くらいが限度ではないでしょうか。
この数字は、多いようで少ないのです。頭も心も柔らかい小さな子供のときにこそ、自発的に量をこなすことができれば、心の中にしみついてしまうのです。
子供が、一年間に百枚もの絵を描くことを想像してみてください。
どんな子供でも、絵を描くことに抵抗がなくなってしまうなんてことではなくて、もう自然になってしまうのです。その上、造形感覚も表現力も誰も教えなくても自然に驚くほど向上してしまうのです。

 

これが子供だけが持つ、驚くべき能力なんです。
子供たちに理屈はいらないのです。
子供たち自身が楽しいと感じ、自ら描きたいと思って描く、そんな環境さえ与えてあげれば、そしてそれを継続させてあげることさえできれば、子供たちは勝手に信じられない成長を遂げてしまうのです。

 

子供たちには、数こそ力、量こそ力なのです。

 

3つ目の魔法 ★ 消しゴムを使わない魔法

 

描いては消して、また描いては消して・・・を繰り返してゆくとなかなか前に進めず、その結果残るのは「上手く出来なかった」という思いと汚れた画用紙だけ・・・なんてことになってしまいます。
そこで「消しゴムを使わない」と決めてしまいます。すると、子どもたちに驚くことが起きてきます。
最初は、嫌がっている子ども達でもすぐに慣れてきて、間違った線も気にしないでスラスラと楽しそうに描いてゆけるようになります。
これには、周りで見ている大人たちは、きっと子どもの不思議を体感できると思います。
また、このことは失敗を恐れないという“心”が育ってゆくことにつながってゆきます。

 

☆ 消しゴムを使わない魔法の本当のわけ

 

『子供の空想画』続けてきていると、この約束を「へんなルールだな」と感じられたり、お子さんからも「どうして消しゴムを使ってはいけないの?」などと何度も質問されたり、時には「使えないならもう描かない!」などと言われ、困り果ててしまった方もいらっしゃいます。
 ですが、そんなお子さんたちとのやりとりをなんとか乗り越え、長い間このルールを守らせてくると、少しずつ、このルールの本当の理由と凄さがわかってきてもらえます。

 

 「空想画」を始める前に述べたこのルールの理由が「嘘」という訳ではなく、より深い理由が少しずつお子さんの成長から見て取れるのではないかと思っています。
思ったことと違う結果や、間違ったと思ったことで悩み立ち止まるのではなく、そんなことは気にしないでどんどん前に進んでいく、そんな積極的な「気にしない心」が、消しゴムを使えないことで、お子さんの中に大きく大きく育ってゆくのです。
この「意欲的な心」を育てる為というのが、このルールの本当の理由という訳です。

 

この考えをしっかりと体得した子供たちは、白い紙に、何の下書きも必要としないで、楽しそうに、そして恐ろしいくらいにすらすらと自分の思ったことをどんどん描いていってしまうのです。
しかも最後には、ボールペン一本で、白い紙にスラスラと・・・なんてことも起こってしまうのです。
そんな子供たちは、まさにエンピツを持ったモンスターであり魔法使いのようです。

 

4つ目の魔法 ★ 真っ白じゃない画用紙の魔法

 

真っ白い画用紙、これは実は大人にとっても子供にとってもとても怖いものなのです。
白い紙に初めて何かを描いてゆく、これは凄く勇気のいることなのです。
いつかは、その真っ白い紙に何の抵抗もなく、楽しそうにスラスラ描き始めてくれることを願いながらも、最初のうちはいろいろな工夫をしていきたいものです。
子供に与える画用紙に例えば四角が一個描かれていたら、子供たちはどのように受け止めるのでしょうか?
何か、凄く興味がわいてきませんか!

 

おうちの方が簡単な丸や四角などを描いてあげるのです。
これは前もって描いてあげたものを、子供の目の前に出すより効果的だと思います。
そして、前項で説明したような手順で空想画を進めてゆくのです。

 

「山があって、木もあって川も流れていたよね?」

 

あるお子さんは、「この四画や丸は何なの?」などと聞いてくるかもしれません。
そこで、おうちの方は、「何だろうね!不思議だね!」
「この形を山や木や川に利用すると面白いかもね!  でも、じゃまだったら、気にしなくていいんだよ!」
あまりその使い方を限定しないようにすることも大切なことです。
まさに、子供の本能に任せたほうが、面白い結果が出てきます。

 

* 白い紙の方が、自由に気楽に描き始められるお子さんもいます。その場合は、白い紙をそのまま使ってください。